法定相続人が兄弟姉妹だけになるのは、被相続人に配偶者・子(孫)・親(祖父母)のいずれもいない場合か、先順位の相続人が全員相続放棄した場合です。このとき遺産は兄弟姉妹で均等に分けますが、父母の一方だけが同じ「半血兄弟姉妹」の相続分は全血兄弟姉妹の2分の1になります。そして兄弟姉妹に遺留分はありません。
この記事では、法定相続人と相続割合の全体像を早見表で示したうえで、兄弟姉妹が相続人になるケースを、実務で本当につまずくポイント(戸籍集め・相続税の2割加算・相続放棄の期限)まで掘り下げて解説します。
記事執筆:行政書士法人 相続ワンストップ 代表社員 荒井兄吾
最終更新:2026年8月9日(法令・制度は2026年8月時点の内容です)
▼AIキャスターによる音声ガイドも作りましたので、読むのが面倒な方はぜひお聴きください。読み間違いはご容赦くださいませ。
質問 1 / 3
亡くなった方(またはご自身)に、お子さん・お孫さんはいますか?
※養子・認知した子・前の結婚の子も含みます
質問 2 / 3
ご両親・祖父母のうち、ご存命の方はいますか?
質問 3 / 3
配偶者(夫・妻)はいますか?
※内縁・事実婚は含みません
兄弟姉妹は相続人になりません
- 第1順位のお子さん(すでに亡くなっていればお孫さん)が相続人です。配偶者がいれば「配偶者+子」で相続します
- ただし「子がいない」は記憶ではなく戸籍で確認が必要です。認知した子や養子は戸籍にしか現れません
※相続放棄・相続欠格などがあると結論が変わります。一般的なケースの目安です。
相続人は父母(祖父母)。兄弟姉妹はまだ相続人ではありません
- 第2順位の直系尊属が相続人です。配偶者がいれば「配偶者3分の2+親3分の1」です
- 親が全員亡くなるか、全員が相続放棄をすると、兄弟姉妹に相続権が回ってきます
※相続放棄・相続欠格などがあると結論が変わります。一般的なケースの目安です。
配偶者が4分の3、兄弟姉妹が全員で4分の1
- 兄弟姉妹に遺留分はありません。「全財産を配偶者に」という遺言が1通あれば、兄弟姉妹との遺産分割協議は不要になります
- 兄弟姉妹の側から見ると、遺言があれば取り分はゼロになり得ます
- 兄弟姉妹が相続する分の相続税は2割加算されます
※相続放棄・相続欠格などがあると結論が変わります。一般的なケースの目安です。
兄弟姉妹だけで、遺産を均等に分けます
- ただし異母・異父の兄弟姉妹(半血)の取り分は、父母とも同じ兄弟姉妹の2分の1です
- すでに亡くなった兄弟姉妹の子(甥・姪)が代襲相続します(一代限り)
- 相続税は2割加算。戸籍集めは両親の出生まで遡るため大変で、広域交付は兄弟姉妹の戸籍には使えません
※相続放棄・相続欠格などがあると結論が変わります。一般的なケースの目安です。
目次
Toggle法定相続人と相続割合の早見表
法定相続分は、相続人の組み合わせによって決まります。まず全パターンを一覧で確認してください(民法900条/2026年8月時点)。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者の相続分 | 配偶者以外の相続分 |
|---|---|---|
| 配偶者と子 | 2分の1 | 子 全員で2分の1 |
| 配偶者と父母(直系尊属) | 3分の2 | 父母 全員で3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | 兄弟姉妹 全員で4分の1 |
| 配偶者のみ | 全部 | — |
| 子のみ | — | 子 全員で全部 |
| 父母のみ | — | 父母 全員で全部 |
| 兄弟姉妹のみ | — | 兄弟姉妹 全員で全部 |
相続順位と遺留分の有無は次のとおりです。第3順位の兄弟姉妹だけ、遺留分がありません。
| 順位 | 該当する人 | 代襲相続 | 遺留分 |
|---|---|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者 | — | あり |
| 第1順位 | 子(直系卑属) | 孫・ひ孫と何代でも | あり |
| 第2順位 | 父母(直系尊属) | — | あり |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 | 甥・姪の一代限り | なし |
参考:国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分/法務局 法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)
法定相続人とは
法定相続人とは、民法で定められた「遺産を相続する権利がある人」です。範囲は配偶者と血族に限られ、配偶者は常に相続人になります。血族には第1順位=子(直系卑属)、第2順位=父母(直系尊属)、第3順位=兄弟姉妹という優先順位があり、上位の順位の人が1人でもいれば、下位の順位の人は相続人になりません。
内縁の配偶者、離婚した元配偶者、配偶者の連れ子(養子縁組をしていない場合)、子の配偶者は、いずれも法定相続人には含まれません。
法定相続分とは
法定相続分とは、遺言がない場合や遺言が無効である場合に、民法が定める各相続人の取り分の割合です。ただし法定相続分は「話し合いがまとまらないときの基準」であり、相続人全員が合意すれば、どのような割合で分けても構いません。遺産分割協議で全員が合意した内容が、法定相続分より優先します。
兄弟姉妹だけが法定相続人になる2つのケース

兄弟姉妹だけが法定相続人になるのは、次の2つのケースです。
- 配偶者がおらず、第1順位(子・孫)と第2順位(父母・祖父母)の相続人もいないケース
- 先順位の法定相続人が全員、相続放棄をしたケース
1.配偶者・子・親のいずれもいないケース
被相続人が独身(未婚、配偶者に先立たれた、離婚した等)で、子や孫などの第1順位、父母や祖父母などの第2順位がいなければ、第3順位の兄弟姉妹が法定相続人になります。
注意したいのは第2順位の「直系尊属」には祖父母も含まれる点です。父母がすでに亡くなっていても、祖父母が存命であれば祖父母が相続人になり、兄弟姉妹には相続権が回ってきません。高齢の親を持つ90代の方の相続などでは実際に起こり得ます。
2.先順位の相続人が全員相続放棄したケース
子や孫、父母や祖父母などの相続人がいても、全員が相続放棄をすれば、次順位である兄弟姉妹が相続人になります。相続放棄をした人は「初めから相続人でなかった」ものとして扱われるためです(民法939条)。
このケースで最も怖いのは、借金だけが回ってくることです。先順位の相続人が全員放棄したということは、多額の債務がある可能性が高いということです。しかも家庭裁判所から「あなたが相続人になりました」という通知が届く制度はありません。前の順位の相続人から連絡が来なければ、兄弟姉妹は自分が相続人になった事実を知らないまま、債権者からの督促で初めて知ることになります。
ご自身が相続放棄をする場合は、次順位の相続人に必ず知らせてください。それが兄弟姉妹を守ることになります。
兄弟が相続人の場合の相続割合(法定相続分)

兄弟姉妹の相続割合は、配偶者がいるかどうかで変わります。配偶者がいれば兄弟姉妹全員で4分の1、配偶者がいなければ兄弟姉妹全員で全部です。以下、金額の例で確認します(最終的な取得分は相続人全員の合意で決められます)。
配偶者と兄弟が相続人の場合は4分の3対4分の1
被相続人に子も親もおらず、配偶者と兄弟姉妹がいる場合、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が全員で4分の1です。
| 相続人 | 相続分 | 遺産4,000万円の場合 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 4分の3 | 3,000万円 |
| 兄 | 8分の1 | 500万円 |
| 弟 | 8分の1 | 500万円 |
兄弟のみが相続人の場合は均等
被相続人に配偶者・子・親がおらず、兄弟姉妹だけが相続人の場合、遺産は兄弟姉妹で均等に分けます。三人兄弟で被相続人以外に2人が残っていれば2等分、3人が残っていれば3等分です。
例:遺産4,000万円、残された兄弟が2人 → 各2,000万円
異母・異父兄弟(半血兄弟姉妹)の相続分は全血兄弟姉妹の2分の1
父母の一方だけが同じ兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方が同じ兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)の2分の1です(民法900条4号ただし書)。これは現在も有効なルールで、兄弟姉妹の相続でよく見落とされる論点です。
2013年(平成25年)の最高裁決定と民法改正で撤廃されたのは、非嫡出子(婚外子)の相続分を嫡出子の2分の1とする規定であって、半血兄弟姉妹の規定ではありません。この2つは混同されやすいのでご注意ください。
| 相続人 | 続柄 | 相続分 | 遺産3,000万円の場合 |
|---|---|---|---|
| 兄 | 全血(父母とも同じ) | 5分の2 | 1,200万円 |
| 妹 | 全血(父母とも同じ) | 5分の2 | 1,200万円 |
| 異母弟 | 半血(父のみ同じ) | 5分の1 | 600万円 |
ただし、この2分の1ルールが適用されるのは「兄弟姉妹が相続人になる第3順位の相続」に限られます。父または母が亡くなって子として相続する場合(第1順位)は、異母・異父の別に関係なく相続分は同じです。
甥・姪が代襲相続する場合は親の取り分を引き継ぐ
相続人になるはずの兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子である甥・姪が代襲相続します。甥・姪は、亡くなった親(被相続人の兄弟姉妹)の相続分をそのまま引き継ぎ、複数いればその中で均等に分けます。
例:兄弟が兄・弟の2人、弟が先に死亡し、弟に子(甥)が2人いる場合
兄:2分の1/甥A:4分の1/甥B:4分の1
関連記事:子どもがいない相続の実際 相談~受任まで
兄弟姉妹に遺留分はない

兄弟姉妹と甥・姪には遺留分がありません(民法1042条)。「遺産はすべて第三者に遺贈する」という遺言が残されていた場合、兄弟姉妹はどれだけ不満があっても、1円も請求できません。
遺留分とは、一定範囲の法定相続人に最低限保障される遺産の取得分です。遺言や生前贈与によって取得分が遺留分を下回った場合、その不足額を金銭で請求できます(遺留分侵害額請求)。遺留分が認められるのは配偶者・子(孫)・父母(祖父母)までで、兄弟姉妹は対象外です。
| 相続人 | 遺留分の総額(総体的遺留分) |
|---|---|
| 直系尊属(父母・祖父母)のみ | 遺産の3分の1 |
| 上記以外(配偶者・子を含む場合) | 遺産の2分の1 |
| 兄弟姉妹・甥姪 | なし |
遺留分がないことは「弱点」にも「武器」にもなる
この一点は、立場によって意味が正反対になります。
- 兄弟姉妹の側:遺言があれば取り分はゼロになり得る。争う法的手段がない
- 遺言を書く側(子どものいない方):遺言さえ書けば、配偶者やお世話になった人に財産を100%渡せる。後から兄弟姉妹に覆される心配がない
子どものいないご夫婦にとって、これは非常に重要です。遺言がなければ、配偶者は夫(妻)の兄弟姉妹全員と遺産分割協議をしなければなりません。自宅の名義変更ひとつに、面識のない義理の兄弟姉妹や甥姪の実印が必要になります。逆に「全財産を妻に相続させる」という遺言が1通あれば、その協議は一切不要になります。
兄弟が相続人になったら必ず確認すべき5つのこと

1.被相続人に本当に子がいないかを戸籍で確認する
最優先の確認事項です。被相続人に子(認知した子や養子を含む)が1人でもいれば、その子が第1順位の相続人となり、兄弟姉妹は相続人ではなくなります。
確認方法は被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて取得することの一択です。戸籍には過去の婚姻・離婚・認知・養子縁組・離縁がすべて記載されます。「独身だと聞いていた」「子はいないはずだ」という家族の記憶は、根拠になりません。各機関の窓口は戸籍でしか判断しないため、半端な書類では門前払いになります。
2.代襲相続は甥・姪の一代限りで、再代襲はない
兄弟姉妹の代襲相続は甥・姪までで打ち切りです(民法889条2項)。甥・姪もすでに亡くなっている場合、その子(大甥・大姪)が相続することはありません。
第1順位の直系卑属であれば、子→孫→ひ孫と何代でも代襲(再代襲)が続きますが、第3順位の兄弟姉妹には再代襲の規定が適用されないためです。この違いが、相続人の範囲を確定するうえで大きく効いてきます。
また、相続放棄をした人の子は代襲相続しません。代襲相続が起こるのは、相続人が先に亡くなっている場合と、相続欠格・廃除があった場合に限られます。
3.相続税は2割加算される
兄弟姉妹と甥・姪が相続する場合、相続税額は2割増しになります(相続税法18条)。配偶者と一親等の血族(子・父母)以外が対象で、代襲相続した甥・姪も含まれます。
そもそも相続税がかかるのは、遺産総額が基礎控除を超える場合だけです。基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数です(2026年8月時点)。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
さらに、兄弟姉妹には配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)が使えません。配偶者が相続する場合と比べ、税負担は大きく変わります。相続税の申告と納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
4.不動産の相続登記は3年以内が義務(2024年4月〜)
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法76条の2・164条)。
この義務は施行前に発生した相続にも遡って適用されます。2024年4月1日より前に相続が発生していた不動産の期限は、2027年3月31日です。「何十年も前に亡くなった親の名義のまま」という土地をお持ちの方は、期限が迫っています。
兄弟姉妹の相続では、相続人の確定に時間がかかり3年に間に合わないことがあります。その場合は「相続人申告登記」という簡易な手続きで、いったん過料を回避できます(不動産登記法76条の3)。ただしこれは暫定措置であり、遺産分割がまとまった後に改めて正式な相続登記が必要です。
5.遺産分割を10年放置すると、寄与分・特別受益を主張できなくなる
相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなり、機械的に法定相続分で分けることになります(民法904条の3、2023年4月1日施行)。
「介護をしたのだから多めに欲しい」「兄は生前に住宅資金を援助してもらっている」といった主張は、10年で通らなくなります。兄弟姉妹の相続は、面識の薄さや連絡の取りづらさから話し合いが止まりやすく、この10年は決して長くありません。10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割請求をしていた場合などの例外はありますが、基本は「放置すると主張する権利を失う」と考えてください。
兄弟相続は戸籍集めが桁違いに大変|広域交付の落とし穴

兄弟姉妹の相続では、被相続人本人だけでなく「両親の出生から死亡までの全戸籍」が必要になります。親と子の相続に比べ、集める戸籍の量は数倍から十数倍になります。ここが実務で最も時間を取られる工程です。
兄弟相続で必要な戸籍
- 被相続人の出生から死亡までの連続したすべての戸籍(子・配偶者・養子縁組の有無を証明するため)
- 両親それぞれの出生から死亡までの連続した戸籍一式(異父・異母兄弟や養子縁組で出入りした兄弟をすべて確定するため)
- 祖父母の死亡が記載された除籍(第2順位の直系尊属がいないことを証明するため)
- 相続人になる兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その人の出生から死亡までの連続した戸籍一式(代襲相続する甥姪を確定するため)
- 確定した相続人全員の現在戸籍謄本(+住民票、戸籍の附票)
戸籍の広域交付は、兄弟姉妹の戸籍には使えない
2024年3月1日から、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本をまとめて請求できる「広域交付」が始まりました(戸籍法120条の2)。相続手続きが劇的に楽になった制度ですが、兄弟姉妹の相続では最も肝心なところで使えません。
広域交付で請求できるのは、本人・配偶者・父母や祖父母などの直系尊属・子や孫などの直系卑属の戸籍だけです。兄弟姉妹の戸籍は請求できません。
| 必要な戸籍 | 広域交付で取れるか |
|---|---|
| 自分の両親(直系尊属)の戸籍 | 取れる |
| 被相続人である兄弟姉妹の戸籍 | 取れない(本籍地へ請求) |
| 他の兄弟姉妹・甥姪の戸籍 | 取れない(本籍地へ請求) |
| 戸籍の附票・戸籍抄本 | 取れない(従来どおり) |
つまり兄弟相続では、両親の戸籍は広域交付でまとめて取れるのに、兄弟姉妹本人や甥姪の戸籍は今までどおり本籍地の役所に郵送請求しなければならないという、中途半端に不便な状態が残っています。「広域交付が始まったから自分でできる」と考えて着手し、途中で行き詰まるご相談が実際に増えています。
なお、行政書士・司法書士・弁護士などの専門職は、職務上請求により本籍地へ郵送で請求できます。
関連記事:死亡・相続ワンストップサービスとは?オンラインでできること・できないこと
戸籍は1枚の抜けもなく揃って初めて相続人が確定します。そして確定した相続人全員の署名・実印がなければ、金融機関の解約も不動産の名義変更も一切できません。自分で進めて書類の不足が判明するたびに再請求していると、手続きを「始める」までに何か月もかかることがあります。養子縁組や異父・異母兄弟が絡む場合、必要な戸籍は膨大な数になり、専門家でも慎重に読み解く必要があります。
兄弟間の相続トラブルでありがちなケース

兄弟の誰かが故人の介護をしていた
介護や身の回りの世話をしていた人と、疎遠だった人との間で温度差が生まれ、取り分をめぐってもめやすいケースです。通帳や印鑑を預かっていた人が「使い込んだのではないか」と疑われることもあります。
このとき主張されるのが寄与分です。寄与分は、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした相続人に認められるもので、「療養看護その他の方法」による寄与も条文上はっきり対象に含まれています(民法904条の2)。したがって「介護は寄与分にならない」わけではありません。
ただし認められるハードルは高く、通常の親族間の扶養の範囲を超える「特別の」貢献が必要です。実務では、介護の期間の長さ、身体的・精神的負担の程度、専門職に依頼していれば相当の費用がかかったといえるか、といった点が総合的に判断されます。日常的な手伝いや同居だけでは足りません。
そして最も大事な点として、遺産分割はあくまで話し合いです。家庭裁判所で寄与分が認められるケースは限られており、記録も残っていないことがほとんどです。介護の貢献に報いたいのであれば、生前に遺言で明記しておくことが最も確実です。
相続人でない人が介護していた場合は「特別寄与料」
兄弟の配偶者や甥姪の配偶者など、相続人ではない親族が介護をしていた場合は、相続人に対して金銭を請求できる特別寄与料の制度があります(民法1050条、2019年7月1日施行)。
請求期限は相続の開始および相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年と非常に短いため、該当する可能性がある方は早めにご相談ください。
相続人全員が高齢で、判断能力に不安がある
兄弟姉妹が相続人になるということは、その方々も被相続人と同世代=高齢だということです。連絡がつかない、外出できない、入院している、字が書けない、認知症が進んでいる——こうした状況が同時に起こります。
判断能力が失われている相続人が1人でもいると、その方が署名した遺産分割協議書は無効になり得ます。この場合は家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があり、手続き全体が数か月単位で延びます。しかも成年後見は遺産分割が終わっても原則として続き、後見人への報酬が発生し続けます。「とりあえずハンコだけもらっておく」は、後で最悪の結果を招きます。
ほとんど会ったことがない相続人がいる
高齢になるほど兄弟間の交流は薄れ、被相続人の晩年を誰も知らないということが起こります。甥姪が代襲相続人になった場合、幼い頃に一度会ったきりで50年ぶり、ということも珍しくありません。養子縁組や異父・異母兄弟が絡むと、戸籍を取って初めてその存在を知ることもあります。
面識がなくても、住所がわからなくても、相続人である以上その方の署名と実印、印鑑証明書がなければ手続きは1ミリも進みません。無視して進めることはできません。初めて交わす会話が遺産の話になるわけですから、切り出し方ひとつで話がこじれます。ここは第三者である専門家を挟むのが安全です。
遺産がほぼ不動産のみ

不動産は物理的に分けられないため、分け方は次の4つです。兄弟相続では「共有」を選ぶと将来ほぼ確実に問題になります。
| 分割方法 | 内容 | 兄弟相続での注意点 |
|---|---|---|
| 共有 | 複数の相続人で共同所有する | 売却に全員の同意が必要。相続人が亡くなると持分が次世代に散り、所有者不明土地の原因になる |
| 現物分割 | 不動産はA、預貯金はBというように現物で分ける | 預貯金が少ないと極端に不公平になる |
| 代償分割 | 不動産を取得した人が、他の相続人に自分の財産から金銭を支払う | 取得者に支払う資力が必要 |
| 換価分割 | 売却して現金化し、代金を分ける | 仲介手数料・譲渡所得税・解体費用などを差し引いた「手取り」で計算しないと後でもめる |
借金が多いときの相続放棄は3か月以内

相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、家庭裁判所へ各自が申述します(民法915条)。プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない手続きです。
3か月の起算点は「死亡日」とは限らない
兄弟姉妹の相続で特に重要なポイントです。期限の起算点は死亡日ではなく、自分が相続人になったことを知った時点です。
先順位の相続人が全員相続放棄したことで自分に順位が回ってきた場合、起算点はその事実を知った時になります。疎遠だった兄弟の死亡を半年後に知ったという場合も同様です。「もう3か月を過ぎているから無理だ」と諦める前に、必ずご相談ください。事情によっては、なお申述が認められる余地があります。
相続放棄をする前にやってはいけないこと
被相続人の財産に手をつけると、相続を承認したとみなされ(法定単純承認)、相続放棄ができなくなります。
- 預貯金を引き出して使う
- 被相続人の債務を相続財産から返済する
- 形見分けを超えて遺品を処分・売却する
- 賃貸物件を解約して残置物を廃棄する、車を売却する
ご相談で特に多いのが、故人が乗っていた車や借りていた部屋の処分をどうするかという問題です。迷ったら、何もせずに先にご相談ください。良かれと思って片付けたことが、取り返しのつかない結果になります。
全員が放棄すると「相続財産清算人」が必要になる
兄弟姉妹全員が相続放棄すると相続人が誰もいなくなります。この場合、利害関係人などの申立てにより家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、その人が財産を清算します。
なお、2023年4月1日施行の民法改正で、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が変更されました。古い解説記事では旧名称のままのものが多いのでご注意ください。
また、相続放棄をしても、現に占有している財産については清算人に引き渡すまで保存義務が残ります(民法940条)。管理していた空き家の一部が崩れて他人に損害を与えた場合、責任を問われる可能性があります。清算人の選任申立てには、数十万円規模の予納金を求められることが一般的です。
限定承認という選択肢
プラスの財産の範囲内でのみ債務を引き継ぐ限定承認という方法もあります。ただし相続人全員が共同で、同じく3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません(民法923条・924条)。1人でも反対すれば選べません。手続きは複雑で税務上の論点も伴うため、実際に利用される例は多くありません。
3か月以内に判断できない場合は、期限が来る前に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立ててください。何もしないまま3か月が過ぎると単純承認とみなされ、負債もすべて引き継ぐことになります。
相続財産に含まれる主な負債
- 住宅ローン、車のローン
- クレジットカードの未払金・年会費
- 消費者金融からの借入
- 未払いの税金(住民税・固定資産税・所得税など)
- 未払いの医療費・入院費・老人ホームの利用料
- 連帯保証債務
なお葬儀費用は被相続人の債務ではなく、喪主が負担するものと扱われるのが一般的です。相続財産から支出するかどうかは相続人間の話し合いによります。
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兄弟相続のトラブルを防ぐ4つの対策

1.遺言書を作っておく(最も効果が大きい)
兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書の効果が最も強く出るのがこのケースです。遺言があれば相続人全員の合意も実印も不要になり、遺言執行者だけで不動産の名義変更や預貯金の解約ができます。
子どものいないご夫婦であれば、お互いに「全財産を配偶者に相続させる」という遺言を1通ずつ書いておくだけで、義理の兄弟姉妹や甥姪との遺産分割協議を完全に回避できます。これだけで、残された配偶者の負担は劇的に変わります。
ただし、名義変更や解約に使えない書き方の遺言では、かえってもめる原因になります。書籍やインターネットの雛形をそのまま使うのは危険です。誰を遺言執行者にするかは特に重要で、2019年施行の相続法改正で遺言執行者の権限と義務が明文化されたため、慎重な設計が必要です。「付言事項」で理由を書き添えておくことも、感情面のトラブル防止に有効です。
2.不動産の分け方を先に決めておく
現物分割・換価分割・代償分割・共有のどれを選ぶかを、生前に決めて遺言に落とし込んでおきます。特に「共有にしない」ことを決めておくだけでも、次の世代への持ち越しを防げます。
3.財産の全体像がわかる資料を残しておく

兄弟姉妹が相続人になるケースでは、被相続人に同居人がいないことがほとんどです。どこの銀行に口座があるのかすら誰も知らない、という状態から財産調査を始めることになります。これが相続税の申告期限(10か月)を圧迫します。
金融機関名・支店・証券口座・保険・不動産の所在を一覧にした財産目録を作り、保管場所を1人でも伝えておいてください。事業主の方や複数の不動産をお持ちの方は特に重要です。
4.兄弟間で手続きを押し付け合わない
親の相続と違い、兄弟の相続では「誰が動くのか」が決まりません。戸籍集めや財産調査を互いに譲り合っているうちに、相続税の申告期限(10か月)も相続登記の期限(3年)も過ぎていきます。
手続きは第三者に任せ、兄弟間では関係を保つことに専念する。これが結果的に最も費用対効果の高い進め方です。兄弟相続は戸籍の読み解きが特殊なので、この分野の経験がある専門家をお選びください。
兄弟しか相続人がいないケースでよくある質問
兄弟のみが相続人の場合、相続割合はどうなりますか?
遺産を兄弟姉妹で均等に分けます。3人残っていれば3等分です。ただし父母の一方だけが同じ半血兄弟姉妹の相続分は、全血兄弟姉妹の2分の1になります。
配偶者と兄弟が相続人の場合の割合は?
配偶者が4分の3、兄弟姉妹が全員で4分の1です。兄弟姉妹が2人いれば、1人あたりは8分の1になります。
兄弟に遺留分は認められますか?
認められません。兄弟姉妹と甥・姪は遺留分の対象外です(民法1042条)。そのため「全財産を配偶者に相続させる」という遺言があれば、兄弟姉妹は一切請求できません。
異母兄弟の相続分は他の兄弟と同じですか?
同じではありません。兄弟姉妹が相続人になる場合、父母の一方のみを同じくする異母・異父兄弟の相続分は、父母の双方が同じ兄弟の2分の1です(民法900条4号ただし書)。ただし親の相続で子として相続する場合は差がありません。
甥や姪は相続できますか?
相続人になるはずの兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子である甥・姪が代襲相続します。ただし甥・姪の一代限りで、甥・姪も亡くなっている場合にその子が相続することはありません。
兄弟の戸籍は広域交付で取得できますか?
できません。2024年3月開始の広域交付で請求できるのは、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍のみです。兄弟姉妹や甥・姪の戸籍は、従来どおり本籍地の市区町村へ請求する必要があります。
兄弟が相続すると相続税は高くなりますか?
高くなります。兄弟姉妹と甥・姪は相続税額が2割加算されます(相続税法18条)。加えて配偶者の税額軽減も使えません。ただし遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、そもそも相続税はかかりません(2026年8月時点)。
相続放棄の3か月が過ぎてしまいました。もう無理ですか?
諦めないでください。3か月の起算点は死亡日ではなく「自己のために相続の開始があったことを知った時」です。先順位の相続人の放棄によって自分が相続人になったことを後から知った場合などは、その時点が起算点になります。事情によっては期限内と扱われる余地があるため、早急にご相談ください。
まとめ

- 兄弟姉妹が相続人になるのは、配偶者・子・親がいない場合か、先順位の相続人が全員相続放棄した場合
- 相続割合は、配偶者がいれば兄弟姉妹全員で4分の1、いなければ全部を均等に分ける
- 異母・異父の半血兄弟姉妹の相続分は、全血兄弟姉妹の2分の1
- 兄弟姉妹に遺留分はない。だからこそ遺言が決定打になる
- 代襲相続は甥・姪の一代限り。相続税は2割加算
- 戸籍は両親の出生からすべて必要。広域交付は兄弟姉妹の戸籍には使えない
- 相続放棄は3か月、相続税申告は10か月、相続登記は3年が期限
兄弟姉妹の相続で最後に効いてくるのは、法律論よりも相続人全員が揃うかどうかです。財産が少ないから大丈夫、と対策を後回しにされる方が多いのですが、相続人1人の実印がもらえないだけで、預貯金は1円も動かせず、不動産の名義も変えられません。「全部ほしい」どころか「誰も1円も受け取れない」まま何年も止まってしまう相続を、私たちは実際に数多く見てきました。
生前であれば、遺言書1通で防げます。すでに相続が始まってしまった場合も、動き出しが早いほど選べる手段が多く残ります。シコリを残さない相続を目指しましょう。
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【免責事項】本記事は2026年8月時点の法令・制度に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。相続手続きの取扱いは、戸籍の内容や財産構成、相続人の状況によって結論が変わります。実際のご判断にあたっては、必ず個別に専門家へご相談ください。また、相続税の計算・申告に関する具体的なご相談は税理士、遺産分割の争いに関するご相談は弁護士の業務範囲となります。
最終更新:2026年8月9日



