相続放棄をしても、生命保険の死亡保険金(受取人があなたのもの)・遺族年金・未支給年金・健康保険の葬祭費・香典は受け取れます。これらは相続財産ではなく、あなた自身の固有の権利だからです。逆に、故人の預貯金や税金・保険料の還付金に手を付けると、相続放棄が認められなくなるおそれがあります。
この記事では、相続放棄を検討している方に向けて、「受け取ってよいお金」と「受け取ってはいけないお金」を一覧表で整理し、見落とされがちな税金の注意点(放棄すると生命保険の非課税枠が使えない)まで解説します。
記事執筆:行政書士法人 相続ワンストップ 代表社員 荒井兄吾
最終更新:2026年8月9日(制度・税制は2026年8月時点の内容です)
目次
Toggle受け取れるお金・受け取れないお金の早見表

判断の基準はひとつです。「そのお金は誰のものか」。あなた自身の権利として受け取るお金は放棄しても受け取れます。故人の財産に属するお金は受け取れず、手を付けると放棄ができなくなります。
| お金の種類 | 受け取り | 理由 |
|---|---|---|
| 生命保険の死亡保険金(受取人=あなた) | ○ 受け取れる | 受取人の固有財産 |
| 遺族年金 | ○ 受け取れる | 遺族の固有の権利 |
| 未支給年金 | ○ 受け取れる | 遺族の固有の権利(最高裁平成7年11月7日判決) |
| 死亡退職金(規程で受取人指定あり) | ○ 受け取れる | 受給者の固有財産 |
| 葬祭費・埋葬料(健康保険の給付) | ○ 受け取れる | 申請した遺族への給付 |
| 香典・弔慰金 | ○ 受け取れる | 喪主・遺族への贈与 |
| 故人の預貯金の払い戻し | × 受け取れない | 相続財産。使うと単純承認 |
| 税金・保険料の還付金 | × 受け取れない | 故人に返還されるお金=相続財産 |
| 入院給付金(受取人=故人) | × 受け取れない | 故人の請求権=相続財産 |
| 故人宛の株の配当・家賃収入 | × 受け取れない | 相続財産 |
相続放棄しても受け取れるお金(あなた固有の権利)

生命保険の死亡保険金|受取人に指定されていればOK
保険金受取人としてあなたが指定されている死亡保険金は、故人の遺産ではなくあなたの固有財産です。相続放棄をしても全額受け取れますし、受け取っても放棄が無効になることはありません。
注意が必要なのは受取人の指定内容です。受取人が「故人自身」になっている保険(入院給付金・医療保険の給付金など)は故人の財産なので、請求・受領してはいけません。保険証券の「受取人」欄を必ず確認してください。
参考:生命保険文化センター 相続放棄をした場合でも、死亡保険金を受け取れるの?
遺族年金・未支給年金|受け取っても放棄に影響なし
遺族年金は、遺族の生活保障のために法律が遺族自身に与えた権利です。相続とは別枠の制度なので、相続放棄をしても受給できます。
亡くなった月までの受け取っていない年金(未支給年金)も同様です。最高裁判所は平成7年11月7日の判決で、未支給年金は遺族が自分の固有の権利として請求するものであり、相続財産ではないと明確に判断しています。受け取っても単純承認にはならず、相続放棄に影響しません。
死亡退職金|会社の規程を確認
勤務先の退職金規程などで「遺族に支給する」と受取人が定められている死亡退職金は、その遺族の固有財産として受け取れます。規程がない場合や「故人に支給する」扱いの場合は相続財産になるため、受け取る前に勤務先へ規程の確認をしてください。
葬祭費・埋葬料|健康保険からの給付金
国民健康保険・後期高齢者医療の「葬祭費」(自治体により数万円程度)や、健康保険の「埋葬料」(5万円)は、葬儀を行った遺族・申請者に支給される給付金です。故人の財産ではないため、申請して受け取っても相続放棄に影響しません。申請期限は原則2年です。
香典・弔慰金|そもそも遺産ではない
香典は喪主(遺族)への贈与であり、故人の遺産ではありません。受け取っても問題ありませんし、相続税もかかりません(社会通念上相当な範囲)。勤務先からの弔慰金も、通常の範囲であれば同様です。
注意:受け取れても「相続税」はかかる(非課税枠が使えない)

「受け取れること」と「税金がかからないこと」は別問題です。生命保険金と死亡退職金は、税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。そして、ここに相続放棄した人だけの落とし穴があります。
| 項目 | 放棄していない相続人 | 相続放棄した人 |
|---|---|---|
| 生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数) | 使える | 使えない(全額課税対象) |
| 基礎控除・非課税枠の「人数」への算入 | 算入される | 算入される(放棄しても人数には入る) |
| 相続税の2割加算(兄弟姉妹・甥姪など) | 対象になる場合あり | 対象になる場合あり |
相続放棄をすると、その人は「相続人ではなくなる」ため、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を自分の受け取った保険金に適用できません。遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるケースで大きな保険金を受け取る場合は、放棄の前に税額への影響を確認しておくべきです。
参考:国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
受け取ると相続放棄できなくなるお金

故人の財産に属するお金を受け取って使うと、「相続を承認した」とみなされ(法定単純承認・民法921条)、原則として相続放棄ができなくなります。特に次のものは、悪気なく受け取ってしまう事故が多いお金です。
- 故人の預貯金の払い戻し(葬儀費用のためでも、まず立ち止まってください)
- 所得税・住民税・固定資産税・国民健康保険料などの還付金(故人に返るお金=相続財産です)
- 高額療養費の払い戻し(世帯主・受給者が誰かで扱いが変わります)
- 受取人が故人になっている入院給付金・手術給付金
- 故人名義の株の配当金、アパートの家賃収入、敷金の返還
やっかいなのは、これらが放っておいても口座や自宅に「振り込まれてくる・届いてしまう」ことです。受け取ってしまったこと自体で直ちにアウトになるわけではありませんが、使ったり自分の口座に移したりしてはいけません。手を付けずに保管し、すぐにご相談ください。
関連記事:法定相続人と相続割合の早見表|兄弟のみの相続・遺留分も解説(相続放棄で相続権が兄弟姉妹に移るケース)
生活保護を受けている場合の注意

生活保護を受給中の方が相続放棄をする場合は、事前にケースワーカー(福祉事務所)への相談が必須です。生活保護には「利用できる資産は活用する」という原則があるため、プラスの財産があるのに相続放棄をすると、保護の停止・廃止や返還の問題につながるおそれがあります。
一方、借金のほうが明らかに多い相続であれば、放棄が認められるのが通常です。自己判断で進めず、福祉事務所と専門家の両方に相談してから動いてください。
相続放棄とお金でよくある質問

死亡保険金を受け取ってから相続放棄できますか?
できます。受取人があなたに指定されている死亡保険金はあなたの固有財産なので、先に受け取っていても相続放棄に影響しません。ただし受取人が故人になっている給付金は別です。受け取る前に保険証券の受取人欄をご確認ください。
遺族年金をもらいながら相続放棄できますか?
できます。遺族年金は遺族自身の権利であり、相続とは別の制度です。未支給年金も最高裁判決(平成7年11月7日)により遺族固有の権利とされており、受け取っても相続放棄できます。
葬儀費用を故人の預金から支払ってもいいですか?
相続放棄を検討しているなら、避けてください。相当額の葬儀費用なら単純承認にあたらないとした裁判例もありますが、金額や内容によっては放棄が認められなくなるリスクがあります。葬儀費用は喪主自身の財産から支払い、領収書を保管しておくのが安全です。
故人の口座に還付金が振り込まれてしまいました。放棄できなくなりますか?
振り込まれただけなら、まだ大丈夫です。問題になるのは引き出して使う・自分の口座に移すなどの処分行為です。何もせずそのままにして、早めに専門家へご相談ください。
受け取った保険金に税金はかかりますか?
かかる場合があります。死亡保険金はみなし相続財産として相続税の対象で、相続放棄をした人は非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使えないため、受け取った全額が課税対象になります。遺産総額が基礎控除以下ならそもそも相続税はかかりません。具体的な計算は税理士にご相談ください。
まとめ

- 受け取れるかどうかは「誰のお金か」で決まる。固有の権利(保険金・遺族年金・未支給年金・葬祭費・香典)はOK
- 故人の財産(預貯金・還付金・故人受取の給付金)に手を付けると放棄できなくなる
- 放棄すると生命保険の非課税枠は使えない。大きな保険金があるなら放棄前に税額を確認
- 生活保護受給中の放棄はケースワーカーへ事前相談
- 迷ったら「受け取る前・使う前」に相談する。受け取った後では選択肢が減る
相続放棄には「相続の開始を知った時から3か月」という期限があります。お金の受け取り判断で迷っている間にも期限は進みます。当法人では、財産調査から相続放棄が必要かどうかの見極め、必要な場合の専門家(司法書士・弁護士)との連携までワンストップでお手伝いしています。初回相談は無料です。
関連記事:相続放棄/法定相続人と相続割合の早見表
【免責事項】本記事は2026年8月時点の法令・税制に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。お金の受け取り可否は契約内容・受取人の指定・個別の事情によって結論が変わります。相続税の計算・申告に関する具体的なご相談は税理士、相続放棄の申述手続きは司法書士・弁護士の業務範囲です。実際のご判断にあたっては、必ず個別に専門家へご相談ください。
執筆:行政書士法人 相続ワンストップ 代表社員 荒井兄吾/最終更新:2026年8月9日
